御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「お姉ちゃんを許せない自分が嫌になって……。それにお姉ちゃんが本気になったら勝てない、翔さんも好きになっちゃうかもしれない……。こんな感情を翔さんに知られたら、嫌われちゃうって思って……。私、結局自分のことばかりで……」
そこまで話してようやく思い知る。
今になって気がつく。
翔の本当の姿を見てしまったあの夜、彼はきっとこんな思いだったのだ。あの時の美果と翔はほぼ初対面だったが、自分しか、あるいはごく近しい人しか知らない感情を覗かれてしまうことはこんなにも不安なのだ。
本心を隠すことは自分を守ること。本性をさらけ出すのはこんなにも怖いこと。包み隠さず本音で話すのはこんなにも無防備なこと。不可抗力といえど、あの日の美果はこうやって翔を不安にさらし、嫌われてしまうかもしれない恐怖と戦わせてしまったのだ。
ごめんなさい、と言葉にしようと顔をあげた瞬間、翔の指先が美果のおでこをピンと弾いた。
「いたっ……! な、なにするんですか?」
「何って、お仕置き」
くすっと笑う翔の顔を見てようやく、翔にでこぴんされたことに気がつく。しかも彼が『お仕置き』と口にするので、あの日翔を怒らせてしまったことへの罰が巡り巡って今やってきたのかと思った。
けれど違った。額をさすさすと撫でていると、伸びてきた翔の手が美果の頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。いつもと同じ、優しい笑顔で。