御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美果は今までずっと、自分の心を押し殺して、一人で悩んで自分で答えを出してきたんだな」
肩を掴まれて身体を引き寄せられ、ぎゅっと強く抱きしめられる。美果の腰と肩に腕を回し、ひりひりする額を胸に預けさせて、後頭部をよしよしと撫でてくれる。これまで苦労してきた美果を、甘やかして労わるように。
「困ったことがあっても誰にも頼らず、全部自分の力だけで解決してきた。それは確かに偉いと思う」
翔が頭を撫で続けてくれるので、彼のシャツの裾をぎゅっと握りしめながらされるがままになる。
そう……今までの美果は、誰にもなにも相談できなかった。静枝の名義で梨果が借金を作ったときも、その肩代わりをすると決めたときも、大学を辞める決断も、夜の仕事を始めるときも、美果は全部自分で考えて一人で決断してきた。
友達がまったくいないわけではなかったが、美果の悩みは当たり前に進学して、何事もなく就職して、普通の恋を楽しんでいる同世代の友人たちに相談できるような内容じゃなかった。
それもきっと、翔に素直に相談できなかった理由の一つだ。すっかりと疲弊した美果の中からは、困ったときに誰か相談するという選択肢が消え去っていた。
「けど、美果はもう一人じゃない。俺が美果を、一人にさせない」
「……翔さん」
「美果の傍には俺がいる、誠人や煌や希だって力になってやれる。だからもう、孤独に耐えて自分を犠牲にする選択なんてするな。自分が諦めることで解決する方法なんて考えるな」