御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 忘れていいなら忘れたい。やっぱりどうしても梨果を好きになれない。それを感じ取ったのか、翔が少しだけ真面目な顔をして美果の肩をポンポンと叩いた。

 それから翔と話し合い、もしまた梨果が接触してきても一人で対処しないことを約束する。何かあったときはまず翔に連絡し、一旦逃げても閉じこもってもいいから、必ず誰かに相談した上で梨果と向き合う、と方針を決める。

 二人で対処方法を確認して頷き合うと翔が安堵に微笑んでくれる。

 けれど美果にはもう一つ。
 翔とちゃんと向き合わなければならないことがあった。

「翔さん、本当にごめんなさい……」
「ん?」

 美果がぽつりと呟くと、立ち上がりかけていた翔が動きをとめて元の位置に戻る。それから美果の顔をじっと覗き込むので、美果はぺこりと頭を下げた。

「私、ひどい言葉で翔さんのプレゼントを台無しにしてしまいました」

 美果の謝罪を聞いた翔も、昨日『誕生日プレゼント』だと言って用意したハワイ旅行の件を思い出したようだ。彼が低く唸るので、さらに申し訳なさを感じてさらに深々と頭を下げる。

「翔さんが私の夢を叶えるために一生懸命考えて準備してくれたこと、嬉しかったです」
「いや、なんで過去形なんだ?」
「え? え……だって……」

 翔が不思議そうに語尾を上げるので、美果もがばっと顔を上げて翔の顔を見つめてしまう。

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