御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果は昨日、父との約束は自分の手で叶えたいと言って翔の気持ちを突っぱねた。与えられるのではなく自分の力だけで成し遂げたい、誰かの手で叶える夢なんてほしくない、とひどい言葉を口にして、翔の気持ちを踏みにじったのだ。
あんなに手酷く断っておきながら、今さら許してもらえるとは思っていない。美果を想う翔の態度から、一応お付き合いを続けてくれる意思は伝わる。だが可愛くない態度で翔を傷付けた償いをしなければ……と思っていたのに。
「別にキャンセルもしてないし、チケットも捨ててない。俺が簡単に諦めるわけないだろ」
翔がにやりと笑う。それから美果の腰に手を回し、反対の手で肩を掴んでソファの上に押し倒される。
上からのしかかってきた翔がじっと美果を見下ろす。いつの間にかその笑顔は、美果をからかういつもの意地悪な表情に戻っていて。
「明日は意地でも早起きして、美果が出勤してきたらこうして押し倒して、美果の口から『一緒に行く』って聞くまで出勤ギリギリまで抱いて。……当日は誘拐してでも連れてくつもりだった」
「えっ、ええぇ……!?」
さすがにそれは、嘘だと思う。昨日の傷付いた表情や今日ここに来た瞬間の悲しげな表情の裏で、そんな不埒なことを考えていたとは思いにくい。