御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
第5章

1. 海と空と白浜と


「美果? まだ拗ねてるのか?」
「……拗ねてないです」

 翔がくすくすと笑いながら訊ねてくるので、つんとそっぽを向きながら否定する。だが言葉と態度が真逆なので、翔は美果が不機嫌であることに気づいているはずだ。

 日本時間の九月二十九日の夜、美果と翔は三泊五日のハワイ旅行のため羽田空港を出発した。

 翔が仕事の予定を詰めて休暇を取得してくれたことも、美果の有給休暇申請をしてくれたことも嬉しかったが……飛行機の中で何度もキスすることには賛同できない。

(二回ぐらい、CAさんに見られた気がする……)

 夜のフライトになるので安眠しやすい環境に整えられていたはずなのに、ことあるごとに翔に声をかけられて口付けられたのでは、ゆっくり眠ることも出来やしない。

 恥ずかしいからやめてください、と言っても笑顔で誤魔化され、美果が諦めて目を閉じたところにたまたまキャビンアテンダントが通りかかる。恥ずかしくて死にそうだった。

 美果よりも翔のほうがよほど浮かれている気がする。もしかしたら翔も海外旅行に行くのは初めて――な訳がない。

 呆れて項垂れる美果だったが、到着したホノルル空港からワイキキビーチに面したホテルに向かうまでの間に、降下していた機嫌はすっかり元に戻った。

 ホテルについてすぐチェックインを済ませ、案内された部屋の豪華さに目眩を覚えつつ中を探索し、涼しげな水色と白のワンピースに着替える。さらに父のカメラを抱えて目の前に広がるワイキキビーチに繰り出すと、美果の気分は最高潮に達した。

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