御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
ガイドマップに載っている有名なビーチやマーケットはもちろんのこと、気になる場所があれば車を停めてもらって写真を撮り続けたおかげで、父のカメラの中はあっという間に青一色になった。
「わあ……夕焼けも綺麗ですね……」
そして日が傾いて夕暮れ時になったためか、ここ数十枚の写真は青からオレンジ色に変わってきている。ファインダーの中に映える黄昏の渚は、黄金の美酒が揺らめいているようだ。
美果が自由に海辺を撮影する間、翔はいつも美果の近くで待っていてくれている。だが手持ち無沙汰の彼は、本当は少し退屈なのかもしれない。ふと気がつけば砂の上に座って美果の様子を眺めたり、空を見上げて何かを考え込んだりしている。
(翔さん、本当にかっこいいな……)
夕焼けに染まる海原を撮影していた美果は、カメラを構えたまま何気なく振り向いた先で、翔の姿をファインダーの中に捉えた。
彼は小さな鼻歌いながらこちらに向かって波打ち際を歩いてきていて――その姿がやけに絵になる、と思った。
気づいた瞬間、美果はシャッターを切っていた。
変化が少ない風景写真と異なり、動きのある人間を捉える人物写真は、慣れていなければピントを合わせることすら難しい。連射モードに設定すれば綺麗な写真が撮れる確率も上がるはずだが、無意識にシャッターを切っていた美果はそこまでの頭が回らなかった。