御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だがこのカメラを翔に預けたところで、どうなるかはもうわかっている。デジタル一眼レフカメラは、普通のカメラよりも扱いが難しいのだ。
「ふふふ、でも翔さんカメラの使い方わからないですよね?」
「どうだろうな?」
そう思っていたのに、カメラを受け取った翔はやけに楽しそうだ。
前回は手ブレとピンボケが強く、美果が美果であることがかろうじてわかるレベルの写真になってしまい、拗ねて「もういい」と言われてしまった。
けれどあのときの表情とは違う。何かを企んでいるような笑顔を浮かべる。
翔が受け取ったカメラの設定を変えながら「歩いて」と指示をする。少し離れたほうがいいということだろう。
美果はたった今翔がこちらに向かって歩いてきた渚を逆戻りに進んだが、十歩も踏み出さないうちに、
「美果」
と声をかけられた。
反射的に振り返る。足を止めて肩から振り向くと、黄昏の渚にパシャッと軽やかなシャッター音が響く。
案外早く撮影されたので、また失敗してしまったのだろうと思う。静止している人よりも動いている人を撮る方がはるかに難しいし、まして今の美果は翔の呼びかけに反応して後ろへ振り向いたのだ。ピントもずれているはずだし、撮影した瞬間は正面すら向いていないかもしれない。
「どうですか~? 撮れました?」
なんなら枠内に収まってすらいないだろうと高を括っていた美果だったが、画像を確認している翔の傍に戻って彼の手元に視線を下げた瞬間、ぴたりと動きが止まってしまった。