御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
被写体の状態や撮影環境を考えると、前回よりもはるかに難易度が高い状況だ。だから絶対に失敗していると思っていたのに。
「え……これ、私?」
「他に誰がいるんだ」
「だ、だって……」
そこに映っていたのは、失敗どころかむしろ上手……いや、素人が撮ったとは思えないほど美しく、色彩も豊かで、やわらかさも躍動も感じられる女性の姿――ずっと憧れていたハワイの海を背景に振り返る、秋月美果の自然な笑顔だった。
予想以上に綺麗に撮れている写真に驚いていると、カメラの上から美果の手を握った翔が少し照れくさそうにはにかんだ。
「俺も美果を撮りたくて、練習したんだ」
「練習……?」
「そう。美果がカメラを家に置いててくれたから、美果の父さんに手を合わせて、たまに使わせてもらってた」
美果は父の形見であるこのカメラをずっと翔の家に置かせてもらっていた。その目的は少しでも金銭を得ようとする梨果の魔手から大事なカメラを守るため。
だがまさか、翔がこのカメラを使っていたなんて。
もちろん大切に扱ってくれるのなら、触れることや使うことを禁じたり非難するつもりはない。けれど美果自身も家事の合間の時間があるときにカメラの掃除やメンテナンスをしていたのに……翔がカメラに触れていたなんて、ましてこのカメラを使って写真撮影の練習をしていたなんて、まったく気がつかなかった。