御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「でもまあ、俺は何の知識もないからな。まずカメラの勉強から始めようと思って色々調べてたんだが……一回美果にバレそうになって、すげぇ焦った」
翔が苦笑いするので小さく首を傾げる。カメラや写真撮影の勉強がばれそうに……?
「あっ……もしかして、あのノートパソコン隠したのって……!」
「やっぱり気づかれてたか」
そうだ、思い出した。天ケ瀬家には家政婦の美果が入ってはいけない場所も、触ってはいけないものもない。それはすなわち、翔が美果に対して隠すものは何もないという意味と同じ。
けれどたった一度だけ、翔が『何かを隠したがっている』と感じたことがあった。
あれは確か、悪天候下での帰宅を止められ、そのまま翔の家に宿泊するよう強制されたとき。仕事じゃないといいつつノートパソコンをサッと閉じた瞬間、美果は翔の行動にわずかな違和感を覚えた。あのときはてっきり、美果がお風呂に入っている間に、持ち帰った仕事をしてるのだと思っていたけれど。
「そう、あのときがちょうど、カメラの勉強を始めた直後だった。美果を驚かせたくてずっと秘密にしてたんだ」
「……びっくりしました。まさかこんなに綺麗に撮ってくださるなんて……」
翔の思わぬサプライズに素直に驚いてしまう。
美果を喜ばせるために、ハワイ旅行を計画するどころか、付き合い始めるずっとずっと前からこっそり練習していたなんて。しかもその練習の成果を披露するように、こんなにも綺麗な写真を撮ってくれるなんて。
「俺にはいつもこう見えてるけどな」
翔が少し困ったように笑う。