御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美人で、可愛くて、きらきらしてて……。俺には手に入らない、俺なんかが手を出しちゃいけない、天使みたいな存在に思ってた」
その困った表情のまま紡ぎ出された恥ずかしい表現に、美果は目をまん丸にして驚いてしまう。天使。天使って……
「翔さん、ちょっと大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫じゃないな」
頭でもぶつけたのだろうか、とおろおろ心配する美果の身体を抱き寄せる。二人の身体の間にあるカメラを押しつぶさないよう、けれど美果を決して逃がさないよう、絶妙な力加減で腰に手を回して頭を抱き撫でる。
「可愛い天使が毎朝俺を起こしてくれなくなったら……美果が俺以外の誰かのものになったら、俺は大丈夫じゃなくなる」
翔は美果よりも六歳ほど年上だが、たまにこうして甘えん坊のようなことを言う。
そんなことがあるはずないのに。美果が翔に捨てられることはあっても、美果が翔以外の誰かを好きになったり、他の人の手を取ることなんて絶対に有り得ないのに。
まるでこの世の終わりを見たような絶望と切なさを滲ませて必死に訴えるものだから、つい可愛いなぁ、と思ってしまう。
「翔さんでも、不安になることあるんですね」
「美果限定だよ」
くすくすと笑うと、翔も同じように楽しそうに笑う。それから少し顔を離すと、美果の耳元でまた愛の言葉を囁く。思わず照れてしまうほどに甘い台詞を。
「俺を幸せにできるのは、美果だけだからな」