御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔の祝福の言葉にはっと顔を上げる。広い室内はすでに照明が落とされていて薄暗いが、テーブルの上とサイドボードの上にいくつかのアロマキャンドルが灯されているので、部屋の様子や翔の表情は十分にわかる。
薄明りの中で壁に埋め込まれたデジタル時計を確認すると、日付が変わって九月三十日になっていた。――そう、今日は美果の誕生日だ。
「あ、ありがとうございます……。こんなに素敵なプレゼントを贈ってくださって、本当に嬉しいです。私の、一生の宝物です」
「俺もだ」
美果が照れながらお礼を言うと、翔もその言葉に同意する。
「人の誕生日を祝うために、こんなに必死に悩んだことはなかった。これほど緊張することは後にも先にもないだろうな」
思春期の頃から自分と家族のことで精一杯だった美果と違って、翔はこれまでの人生の中でそれなりに異性と交際してきたはずだ。もちろん交際相手だけではなく家族や友人、ビジネスパートナーや取引先の生誕を祝う機会も、何度もあっただろう。
だが美果の誕生祝いはこれまでに経験したことがないほど頭を使って色々なことを考えたという。翔にとっても、今日はそれほど重要な日なのだ。
「俺が旅行に誘ったときに言ったこと、覚えてるか?」
「はい……話が、あるって」
翔から今回の旅行をプレゼントされたとき、彼は『誕生日に美果に伝えたいこともある』と言っていた。