御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
そのまま頬の皮を横に引っ張られたのでびっくりしていると、翔がフッと表情を緩める。
「確かに家のことや周りのことも大事だし、俺が天ケ瀬を継ぐこともほぼ確定してる。けど、さっき言っただろ。俺を幸せにできるのは美果だけだ、って」
翔が明確な言葉で思いを伝えてくれる。真っ直ぐに、懸命に、美果の不安を溶かすように。
「美果はそのままでいい。傍にいてくれるだけでいい。美果が笑ってくれるだけで、俺は幸せでいられる。そのぶん俺が、美果を笑顔にする」
「……あ」
翔の宣言を聞いた瞬間、祖母の静枝の言葉を思い出した。
大切なのは美果と翔の気持ち。周りの人との関係も大事だけど、それよりも二人の気持ちの方が重要――優しい静枝は美果にそう教えてくれた。
愛は強くて、他にのなにものにも代えがたくて、それがあるだけで幸福になれる。幸せでいられる。
大好きな祖母の言葉が、彼女の歩んできた人生が……そして翔の力強い言葉が、美果の揺れる気持ちを本当の望みへ導いてくれる。
素直になることを許してくれる。だから。
「私も、翔さんとずっと一緒にいたい……」
本当はまだ、ちゃんと考えなくてはいけないことがある。完全に解決していない問題もある。
けれどそれを差し置いても美果は翔と一緒にいたいと思える。彼の愛を受け入れて、彼と一緒に歩んでいきたいと心の底から思える。
「私も翔さんと、結婚したいです」
「美果」