御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 ありのままの感情を飾らない言葉で伝えると、翔が一瞬目を見開いた。

 でもすぐに笑顔になって、美果の身体をぎゅっと抱きしめてくれる。少し筋肉がついた男性らしい腕で、美果の身体を優しく包み込む。

「よかった……断られるかと気が気じゃなかった」
「緊張してたんですね?」
「した。すげぇ悩んだ」

 美果の問いかけに、翔が気が抜けたように頷く。

「美果の夢を叶える前にプロポーズしても説得力に欠けるから、最低でも一日は美果が自由に写真を撮る時間を作りたかった。けど断られたときに挽回する時間も残しておかなきゃならないと思ったら、最終日に言う訳にもいかないだろ」

 仕事のことを考えるとこれが日程的にこれが限界だし、と言い訳のように呟く翔の悩みに、ついくすくすと笑ってしまう。

 美果の夢を叶えた上でのプロポーズと、もし断られたときにリカバリーすることまで考えてタイミングを図っていたなんて。

「今ならまだ、日本時間でも美果の誕生日だしな」
「えっ、そんなことまで考えててくれてたんですね?」
「当たり前だろ。むしろそこが一番重要だ」

 美果の呟きに、翔が呆れたように頷く。前後の予定や都合も大事だが一番大事なのは美果の誕生日を祝うこと。

 大事な人が生まれた日をちゃんと祝うことが最大の目的だと告げられ、また胸の奥がじんと熱くなる。左手の薬指に収まった指輪が、美果の気持ちの高鳴りに反応するようにきらりと輝く。

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