御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
もちろん翔も一緒で、今日も少し離れたところから美果の様子を見守ってくれている。これならはぐれて迷子になる心配も、知らない人に話しかけられて言葉の壁に困る心配もない。ホテルの許可をもらった美果は、好きなように浜辺と空の写真を撮って歩いた。
「うーん……? 写真に撮るとなんか違うような……」
しばらくの間は初めて見る景色に感動し、美しい海と空に見惚れて、夢中で写真を撮り続けた。しかしふと撮影した画像を確認してみた美果は、自分の目で見ている実際の海や空の美しさを、そのまま写真に捉えられていないような気がしてきた。
「もっと練習しないとだめかなぁ」
もちろん美果はプロのカメラマンではない。美果が持っているのは、ほんの少しの知識と、父が残したデジタル一眼レフカメラと、その父と交わした約束の、三つだけ。カメラマンとしての技術や経験はないので、常に思い通りの写真が撮れるとは限らない。
自分の限界は理解していたが、せっかく翔にここまで連れてきてもらったのに全然上手く撮れないなんて……とひとり落ち込んでいると、近付いてきた翔が美果の顔をそっと覗き込んできた。
「美果、泳がないのか?」
翔に笑顔で訊ねられ「え?」と間抜けな声が漏れる。多分、顔もちょっと呆けていたはずだ。
「水着、着てるんだろ?」
「あ、はい……まあ……」
明るい翔の問いかけを曖昧に肯定する。
確かに水着は着ている。一応明日の日中もホテルの目の前にあるワイキキビーチで遊ぶ予定だが、ここの海やプールにも入れるよう先ほど部屋で着替えていたのだ。
「少しは俺とも遊んでくれないと、拗ねるぞ?」