御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「そうですね……」
ならば今は翔の優しさに感謝して気分を変えたほうが、頭もしっかり働くようになるだろう。彼の言う通り違うインスピレーションが湧いたり、別の視点から写真を撮るアイデアを思いつくかもしれない。
「美果、一緒に泳ごう」
「はい」
一時休憩して微笑む翔の手を取ろうと指先を伸ばす。
しかしそこでふと、別の不安を思い出した。
息抜きに翔と海やプールで遊ぶことはやぶさかでないが、彼の前でこのTシャツとショートパンツを脱ぐのは少し勇気がいる。
「あ、あのですね……!」
「ん?」
「急にハワイに行くことが決まって、大慌てて用意したので……その……っ!」
とりあえず差し出された翔の手は掴んだものの、視線を合わせることを躊躇ってしまう。
翔の疑問の声を聞くと、彼には隠しごとをせず素直になろうと決めた心が少しだけ揺らぐ。それでもどうにか胸に秘めた気持ちを説明しようとするが、言葉にするのは気恥ずかしいし、申し訳ない。
「えっと、ダイエットが、間に合ってなくてですね……」
「……」
翔からハワイ旅行をプレゼントされたのは、出発の前の週だった。日付にすれば十日以上はあったが、二週間足らずで水着姿をご披露できるほどシェイプアップが可能なはずもなく。
翔の手を握ったまま恥ずかしさで俯くと、それを見た翔が口元を押さえて視線を逸らし、笑いを堪えて震え出した。翔は美果の心配ごとにも楽しそうな様子だったが、美果としては笑いごとではない。
「裸まで見てるのに、今さらだろ」
「!」
「昨日美果を上に乗せて、下から全部眺めたもんな?」
「!?」
翔が恥ずかしい言葉で美果の不安を払いのけようとする。