御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「……簡単に言うじゃねぇか」
「人の一番大事な部分は『中身』ですから」
翔の呆れた言葉に、それ以上に呆れた気持ちで言い返す。
翔はきっと、自分と周囲を上手くコントロールして適切に組織を動かしていけるだろう。その能力を十分に秘めていることは、彼の普段の働きぶりを見聞きしていればわかる。
遠目に見ている美果ですらわかるのだ。実際の彼が、美果が見えている姿よりもずっと優秀であることは間違いない。
それに彼には明確な意思がある。自分自身の本質を犠牲にしてまで周囲を導く覚悟がある。
中身がしっかりしている人間は、外見を変えようが変えまいが絶対に自分を見失わない。翔のように芯が強い人間は、どんなことがあっても負けないし、頽れない。人間とはそういうものであることを、美果はちゃんと知っている。
「でもイメージが大事だというのもわかります。私も、別の人格を作って仕事をしているので」
とはいえ、翔がこれまで築き上げてきたものを否定するつもりはない。彼が必死に作ってきたイメージを壊そうとも思っていない。
当たり前だ。そんなことをされて困るのは美果も同じ。夜の仕事中にLilinにやってきて『この人は昼間、地味なシャツとエプロン姿で百貨店のトイレを掃除してるんですよ』なんて言われたら、美果だって営業妨害だと憤慨するだろう。