御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
天ケ瀬百貨店本社の営業本部長を務める翔が長期の休暇を取得するためには、スケジュールの調整役を担う秘書の誠人との戦いに勝利しなければならないらしい。
今回も誠人と協議を重ねて予定を詰め込んで休暇の日程を組んだらしいが、理由が新婚旅行ならば次は今回より幾分か休みやすいだろう。
だが翔の休暇よりも、美果の金銭事情の方が切迫していると思う。
「むう……それまでに貯金間に合うかな……」
美果の嘆きに翔がまた笑顔を見せる。
お金は別にいいだろ、というが、良くはない。今回の旅費や滞在中の費用もほとんど翔のポケットマネーから出されている。支払いのたびに恐縮してぺこぺこ頭を下げてしまう美果は、いつか彼に感謝のお返しをしたいと思うのだ。
「私、実は少しずつですけど、世界遺産の勉強をしてるんです」
「へえ?」
「だからもし新婚旅行に間に合わなくても、いつか翔さんが喜ぶような素敵な旅をプレゼントしますからね」
美果が密かに勉強していることをこっそり打ち明けると、翔が優しく笑ってくれる。
それから夢を追って努力する美果を応援するように、少しだけ冷えた頬を撫でて、
「美果が連れて行ってくれるならどこでもいいし、いつまでも待つ」
と伝えてくれる。
「楽しみにしてる」
「はい」
翔の期待の言葉に笑顔を返す。
楽園の星空の下でそっと抱きしめられて静かに重ねた唇は、少し恥ずかしいけれどどこまでも優しくてやわらかい――お互いの温もりと愛の深さを感じられる、甘い甘いキスだった。