御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「兄の俺から懐柔する作戦に切り替えて、早十年ってとこか。ま、俺が身を固めればあいつも少しは動きやすくなるだろ。誠人も美果に感謝しなきゃな」
翔が語る言葉で、美果もピンと閃く。
(もしかして森屋さんの好きな人って……!)
美果の脳裏に、以前一度だけ会った女性の顔が思い浮かぶ。『仕事に生きたい』『結婚するつもりもない』『人付き合いも最低限』と語っていた彼女が誠人の想い人なのだとしたら、確かに兄であり自分の上司である翔の休暇は絶好の機会なのかもしれない。
わくわくと緊張しながらさらに仔細を訊ねようとしたが、見つめ合った翔は笑顔になると、そのままさらりと話題を変えてきた。
「初めてのハワイはどうだった?」
翔に問いかけられ、はっと我に返る。美果の感想を待って楽しそうに微笑む翔の姿を認めると、今この場にいない二人のことは一旦横へ置こうと思えた。
「とっても楽しかったです。翔さんと一緒に来れてよかった。いつかまた来たいです」
その言葉は紛れもない美果の本心だ。
憧れの地を巡って思うままに写真に収める旅は、想像の十倍も百倍も楽しかった。この愛おしい時間を翔と共に過ごせることが嬉しかった。またいつか、こうやって彼と一緒にハワイに来たいと心の底から思える。
「ありがとうございます、翔さん」