御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 だから美果は、憧れていたハワイの伝統や文化、歴史や言語を学ぶために国際学部に進学した。それが父が見てきた世界を理解するための第一歩だと考えていたからだ。

「高校生の美果が選んだ進路は、父親との夢を追うと同時に、美果自身の夢を叶える選択でもあったんだろ?」
「私、は……」

 翔の問いかけに、少しだけ言葉に詰まる。

 確かにそうだ。きっかけは父との約束だったが、実際に入学するとハワイやハワイ州を有するアメリカ合衆国だけではなく、世界中の様々な国の文化や歴史や宗教についても触れることができた。

 そして新しいことを知るたびに、自分の中の世界がどんどん広がっていくように感じていた。その感覚が楽しくて、いつかこの知識を職業に活かすことができたら、と密かに思っていたのだ。

「美果にはもう一度、自分が学びたいことをやり直す機会があっていいと思ってる」

 翔は美果に、自分の夢を追うことを許してくれると言う。美果が望むならもう一度大学に入り直して、学びたいことをちゃんと学んで、その上でまた父の夢をまた追い求めてもいいのではないかという。

「美果が諦めてきたことを、俺が全部叶えたいんだ」
「……翔さん」
「ああ、いや……ちょっと違うな」

 ふいに翔が自分の言葉を訂正する。機体の天井を仰いで、自分の顎の先を撫でながら適切な表現になりうる言葉を探す。

 そんな翔が美果の表情をちらりと見たのち優しく微笑む。美果の頬に腕を伸ばして手で包み込むと、顔を近づけて至近距離で愛を語る。

「美果が夢を叶えるところを、俺が一番傍で見ていたいんだ」

 翔の言葉に、美果はまた泣きそうになる。

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