御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
天ケ瀬翔は秋月美果の幸福を一番に思ってくれる。美果の夢を応援してくれるし、諦めていた願いを叶えることを許してくれる。
美果でさえ気付けなかった本心を読み解き、『その瞬間』を誰よりも近いところで見届けたいと言ってくれる。その想いが嬉しくないはずがない。
美果を認めてくれる翔の言葉に感動していた美果だったが、ふと彼が「あ」と短い声を発した。その声音が若干不機嫌なことに気がつき、顔を上げて首を傾げる。
「ただし、結婚してからだぞ。女子大ならともかく、大学に行けば若い男もいっぱいいる。調子に乗って美果に手を出す奴が湧かないように、名字を『天ケ瀬』にすることが条件だ」
「なんの心配してるんですか……」
真顔でありもしない心配をする翔に、感動していた気持ちが一気に吹き飛ぶ。しかし翔の表情は至極真面目で、気が抜けた美果の鼻をきゅっと摘まんで「危機感ないのは美果の欠点だからな?」と文句まで言われてしまう。
「でももし大学に行くなら、家政婦のお仕事は辞めなきゃいけなくなりますよ」
もちろん翔と結婚することになれば、どちらにせよ家政婦の仕事は辞めることになるだろう。むしろ正式に付き合うようになった時点でただの家政婦ではなくなっているのだから、本来ならばその時点で辞めていてもいいぐらいだ。
そんなことを考えていると、翔がまた不思議なことを言い出した。