御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
もちろんお金は大事だが、それで梨果がまた別のところからお金を借りるようでは意味がない。
それどころか高い利息を課せられた梨果が自暴自棄になったり、それが原因で梨果本人、あるいは梨果の身の回りの誰かが傷付くのも嫌だったので、それならば今回貸したお金についてはもう諦めてもいいと思っていたのだ。
だから翔の『この件は俺に預けてほしい』という言葉を信じて委ねたが、その後どうするかまでは聞いていなかったのだ。
美果の不安の表情を見た翔が、頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。
「これは秋月梨果の名前で、国際児童基金への活動支援金にする。彼女には世界中の貧しい子どもたちに支援することで、自分の労働が他人のためになることを間接的に学んでもらうつもりだ」
「児童基金……ですか?」
「ああ。一定額以上を送金すると現地の子どもたちから手紙やメッセージビデオが届く。それを見て姉の心がどう動くかはわからないが、美果が言うように優しさや責任感や強さがあるなら、これが目が覚めるきっかけになるかもしれないしな」
思いもよらない発想に言葉を失ってしまう。
まさか翔が、梨果から返済の意思を引き出したうえで彼女を更生させる道を示すなんて。本人が知らない間に弱き者に救いの手を差し伸べる道筋を与え、後にその意味を考えさせることで彼女に慈悲と慈愛の精神を学ばせようとするなんて。
「翔はそーゆーとこ優しいよな」
「疎遠になっても美果の姉だからな。正直腹は立つが、美果が気に病む姿は見たくない。まあ、返済されたところで美果も気持ち良くは受け取れないだろうし、かと言って姉をお咎めなしにもしたくないから、現状はこれがベストだろ」
「……翔さん」