御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
2. これは最愛契約ですか?
もう何分こうしているだろう。
あとボタン一つ。最後にこの【申し込む】さえクリックすれば、美果が希望する大学へのインターネット出願が完了する。なのにいつまでも覚悟が決まらず、ノートパソコンの前でこうしてずっと固まっている。そうしている間にも時間は無為に過ぎていくのに。
マウスを握ってボタンにカーソルを合わせたまま深く呼吸をする。それを何度か繰り返したのち、心の中で『いざ!』と意気込んだ瞬間。
「美果」
「ふひゃぁ……!?」
ふと後ろから伸びてきた翔の腕に、ぎゅっと身体を抱きしめられた。驚きのあまり思わず変な叫び声が出てしまう。
ついさっきまでお風呂に入っていたはずなのに、気配もなく戻ってきて急に後ろから抱きしめられたら、それは変な声も出るだろう。翔も美果が画面に集中していることをわかっていて驚かせるなんて、口から心臓が飛び出てきたらどうするつもりなのか。
いや、それよりも。
「おっ、おお、押しちゃった……!」
「はははっ」
慌てて画面を確認した美果は、そこに表示されている【受付が完了しました】の文言から、勢いで申し込みメールを送信してしまったことに気づく。さらに素早く送られてきた自動返送メールの通知で、受験の申し込みがばっちり完了してしまったことも知る。
どういう感情になればいいのかわからず狼狽える美果に対し、美果を驚かせた張本人はどこか楽しげな様子だ。
「弾みがついていいだろ。こういうのは勢いが大事だぞ」
「うう……っ」
確かに翔の言う通りだ。社会人入学枠の募集条件は満たしているし、必要書類もすべて不備がないように確認した。だからもう申し込み以外にすることがないし、こうして出願が完了してしまった以上あとは受験の日に向かってひたすら勉強するしかないのだが。