御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
翔が美果を『可愛い』というのは毎日のこと。けれど就寝準備を終えたあとで発するこの声の甘さは、後の時間に続く小さな布石だ。
「美果。こら、逃げるな」
「だ、だって……」
危機を察知して翔の腕から逃れようとするが、動き出すのが少々遅すぎた。美果が入浴も歯磨きもスキンケアも終えていることを知ると、自らの腕の中に美果を閉じ込めようとする。
さらに耳の裏に口付けながら、
「子作りの予行演習は、毎晩するって言っただろ」
と冗談めかして囁く声に、美果は思いきり照れてしまう。
身体を抱き上げられて寝室に移動すると、ベッドの中央に降ろされる。昼間のうちに掃除とベッドメイクを済ませた布団はせっかくふかふかの状態なのに、翔はその上に美果の身体を押し付けてさっそくパジャマを脱がせようとするのだ。
「あの、一応確認なんですけど……予行演習、なんですよね?」
今さら翔の行為を阻むつもりはない。けれど瞳に宿る熱があまりに本気なので、ついそんな確認をしてしまう。
美果の何気ない問いかけを聞いた翔が、パジャマの隙間から見える美果の素肌を見下ろしたまま、ぽつりと意味深な台詞を呟いた。
「なしでシていいなら、本番でもいい」
「ごめんなさい、嘘です……忘れてください……」
もちろん翔も、本心では早く子どもがほしいのだと思う。それに翔の身の回りの人々がそれを望んでいるのもわかっている。
だが翔は『焦らなくていい』『今は美果がやりたいことを優先する時期だ』と言ってくれる。だから美果もその想いをありがたく受け取って、今は自分の勉強に専念させてもらっているのだ。