御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 とはいえ夫婦の営みを疎かにすることまでは許してもらえないらしい。肌の上に吸い付かれると、すぐにくすぐったさと甘い痺れを感じてしまう。

 美果の顔を見つめて微笑む翔に、そっと唇を奪われる。夫となっても翔は美果を甘やかすことに余念がなく、繰り返されるキスはどこまでも優しく丁寧だ。

「そういえば、翔さんってこれからもずっと同じキャラなんですか?」

 ふと離れた唇の隙間で美果が問いかけると、顔を上げた翔が、ん? と不思議そうに首を傾げた。

「普段はあんまり意識してないですけど、この前お姉ちゃんと話してるのを見たときに思い出したんです。そういえば翔さん、仕事中はずっと敬語と笑顔を絶やさないきらきらで完璧な王子様キャラだったなーって」
「きらきら? ……王子様?」

 美果の説明に語尾を上げる翔だったが、言わんとしていることはすぐに察したらしい。ああ、と低く頷いた翔が、ふっと笑顔を見せる。

「確かに、前よりは他人に素を見せることに抵抗はなくなったな。けど中途半端な振る舞いをして相手を混乱させるぐらいなら、周りが望む人格になりきる方が楽だし、俺も都合がいい。だからまぁ、これからも今までと同じスタイルでいいかと思ってる」

 翔の意思表明に「なるほど」と頷く。

 中身がしっかりしている人間は、外見を変えようが変えまいが絶対に自分を見失わない。芯が強い人間はどんなことがあっても負けないし、頽れない。人間とはそういうものであることを――天ケ瀬翔がその強さを秘めた魅力的な人であることを、美果はちゃんと知っている。

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