御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 そのせいか翔が店舗を訪れる機会が増え、すれ違うたびにじっと見つめられたり牽制するような視線を送られたりしていたので、そのたびに美果もビクビクと縮こまっていた。

 しかし監視するような様子こそあれど、彼が声をかけてくることはなかった。だからこれは檻の中から猛獣が睨んでくるようなもので、怖くても身の安全は保証されている……と思っていたのに、ここに来て突然の呼び出し。

「な、なんでしょうか……?」

 おそるおそる声をかけられた理由を探る美果に、翔がにやりと笑顔を浮かべる。

 いつか見たような笑顔に背中がぴくんと反応する。少しだけ色素の薄い瞳に静かに見つめられると、ふと首筋を撫でられたときのことを思い出してしまう。心音が、少しだけ速度を上げる。

 だが美果が自分の身体の反応をなだめる前に、翔がそっと口を開いた。

「お前なら信用できそうだ」
「?」

 美果の顔を覗き込みながら呟く翔に「信用?」と首を傾げる。その仕草を見た翔の唇から紡がれた提案は、一瞬、意味がまったく理解出来なかった。

「うちの掃除をしてくれ」
「は……? ……はい?」

 思いがけない提案――いや、きっと命令。

 思わず間抜けな声が出た。
 それと同時に、変な汗が美果の背中を流れ落ちていった。

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