御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
5. キラキラの後ろ側
「フロアの北側は来客用のスペースで普段は使わない場所だから、専門の清掃業者を入れてる。お前が掃除するのはこっちの南側、俺の生活スペースだ」
「な、なるほど……?」
翔の説明に一応は頷いたが、本当は全然納得していない。
それはそうだろう。見上げるだけで首が痛くなりそうなほど高く、足を踏み入れるのも躊躇うほど豪華で、一人ではエントランスすら通過できないほどセキュリティが堅牢なマンションの上階ワンフロアが、すべて翔のものだなんて。最上階じゃないからと言われても、使っているのは半分だけだと言われても、それなら大丈夫ですね! となるはずがない。
(私は馬鹿です……高額報酬に目が眩んだ愚か者です……)
今になって激しく後悔している。仕事中に急に捕縛されたせいで判断力が働いてなかったとはいえ、『報酬に十万円支払うから俺の家の掃除をしてほしい』との言葉に安易に乗ってしまったことを。
それでも引き受けてしまったからにはやるしかない、とこうして清掃の仕事の休暇日に翔のマンションを訪れてはみたが……
「き、きたない……!」
想像以上に物で溢れた部屋に、ついポロリと本音が出てしまう。せっかく東京湾沈没ルートを回避したというのに、うっかり本当のことを口にしてしまっては山林生き埋めルートに突入するかもしれない。
慌てて自分の手で自分の口を塞ぐと、隣にいる翔の表情をちらりと確認する。だが聞こえていなかったのか、それとも聞こえていてスルーしたのか、翔は部屋の案内をそのまま続けてくれた。