御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 どうやらきらきら御曹司、掃除が大の苦手らしい。リビングには服が脱ぎっぱなし、乾いた洗濯物は畳まず置きっぱなし、家電の周りは埃が被りっぱなし。さらに投函される広告なのか、それとも仕事の資料なのかわからない紙類があちこちに散乱放題。ゴミ箱もゴミであふれ返っている。

 幸い自動洗浄と抗菌機能が働いているためかトイレや洗面所はさほど汚れていないが、戸棚には絶対にもう使っていないだろう歯ブラシが何本も刺さっているし、脱衣所の床には使用済みの洗顔料やシャンプーの容器が転がっている。

(トイレットペーパーの芯、トイレの窓枠に並べる必要ある?)

 ゴミ箱に捨てればいいだけなのに、とため息を吐く。

「あの、なんで脱いだ服を床に置くんですか?」

 部屋の案内が一通り終わったようなので、片付けに取りかかる前に訊ねてみる。すると美果の質問に瞠目した翔が、不思議そうな表情で首を傾げた。

「ソファに置いたら座れなくなるだろ?」
「ソファに置かずに洗濯籠に入れて下さいよ」

 美果と翔は、そもそも掃除や片付けというものの概念が異なるらしい。一応ツッコミは入れたがそれ以上のアドバイスはやめておいた。きっと、するだけ無駄だ。

 倉庫の戸棚を開けると洗剤やスプレー、雑巾やスポンジといった掃除用具が一通り揃っていたので、それらを引っ張り出すと持ってきたエプロンを身に着ける。

 なぜかほとんど綺麗なキッチン以外は全ての部屋に掃除が必要なので、これは根気のいる作業だ。

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