御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 けれど視線を上げて翔と見つめった瞬間に思い出す。

 無理強いして聞き出したわけではないが、美果は彼の本音を知っている。彼がなにを背負い、なにを思い、なにを覚悟して天ケ瀬グループを導いていこうとしているのかを、今の美果は理解しているのだ。

 本当は彼も本音を覆い隠していたかったはず。自分の本性や本来の姿を誰にも知られずにいたかったはずなのだ。

 しかし美果は偶然にも――いや、『平和な日常を継続したい』という感情だけで、彼の気持ちを聞き出してしまった。翔の秘密を暴いてしまったのだ。

 ならば美果も本当のことを話さなければフェアじゃない。

 もちろん真実を報告する義務はないが、不思議と翔になら話してもいいと思えた。彼に自然と心を許せたことが、自分でも少しだけ意外だった。

「お金が、必要なんです」
「お金……?」

 チラシを仕分ける手が自然と止まる。翔との間に依頼と報酬の約束がある以上、本来なら勝手に手を休めることは許されない。だが美果の動きが止まっても翔は何も言わなかった。

 美果の手は動かなくなったが、口はちゃんと動く。

「私、二歳年上のお姉ちゃんがいるんですけど」
「……病気なのか?」
「ああ、いえ……その、むしろ逆というか……ある意味では病気というか」

 お金が必要で、姉がいる、といえば、普通はそう考えるのかもしれない。高額な医療費がかかる姉妹のために献身的に働いて、どうにか治療代を稼ぐというドラマのような状況を思い浮かべるのが一般的なのかもしれない。

 だが違う。
 美果の姉は、真逆なのだ。

「浪費家なんです、信じられないぐらい」
「は?」

 美果の端的な説明に、翔が驚愕の表情で間抜けな声を出す。その感情豊かな仕草を見ていると、情けなさのせいで笑えてきてしまう。

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