御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「私、お父さんとお母さんがいなくて。今の家族は足が悪くて施設に入っているおばあちゃんと、どこで何をしているのかわからないお姉ちゃんだけなんです」

 今の美果にとって『身内』と呼べる存在は二人だけ。

 頭は比較的しっかりしているが、足が悪くて一人では自由に動けない心優しい大好きな祖母の静枝(しずえ)。そしてろくに働きもしないのに好きなものを好きなだけ買っては、男の元を自由に渡り歩いている姉の梨果(りか)。この二人の存在が、美果を取り巻く金銭事情や生活環境、労働状況に直結している。

「中学のときに父が事故で亡くなっているんですけど、そのときに下りた保険金は難病を患っていた母の治療費に充ててしまって。その母ももう他界してしまったんですが、母は保険に入ってませんでしたし、父の保険金ももう残っていません……」

 美果が中学一年生のとき、プロのカメラマンとして世界中を飛び回っていた父が交通事故で亡くなった。家族のために生命保険に加入していた父はいくらかのお金を残してくれたが、そのほとんどが進行性の難病を患っていた母の治療費に消えてしまった。

 美果も少しでも母の力になりたくて新聞配達のアルバイトを始めて援助したが、美果の高校入学とほぼ同時に母も父の元へ旅立った。

 もちろん両親を失った美果も悲しみに暮れた。しかし大学受験を控えていた姉、梨果の方が精神的に堪えたらしい。荒れた気持ちを整えられず受験に失敗した姉は、それまでの辛さの反動のように贅沢ばかりするようになってしまった。

 しかも高校卒業時にちゃんと就職したはずなのに、いつの間にか仕事を辞め、そのうちまともに連絡を取ることすらできなくなった。


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