御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
さらに有名百貨店の御曹司かつ営業本部長なだけあって、服も靴も身に着けている装飾品もすべてがスタイリッシュで品がある。立っても座っても歩いても、三百六十度どこから見ても彼はいつも華やかだ。
だが翔が有名人である理由は、ただ見た目が良いからだけではない。彼の『天ケ瀬百貨店本社・営業本部長』という肩書きはただの飾りではなく、本当に仕事が出来る優秀な営業本部長らしいのだ。
日々各店舗で起こる様々な問題も、翔が直接赴いて対処すればたちまち解決してしまう。取引先がなかなか首を縦に振らずバイヤーが苦戦していても、翔の交渉術にかかれば誰でもあっさりと契約を結んでしまう。
北は北海道、南は沖縄、なんなら海外まで足を伸ばし、どんな仕事も笑顔で乗り切る。その甲斐あって、彼が営業本部長に就任してから天ケ瀬百貨店の業績はさらに右肩上がりともっぱらの噂だ。
ただしこれについては人から聞いた話でしかないので、定かな情報ではないかもしれない。見た目については見ればわかるが、仕事に関してはどれも美果が直接見聞きできない場所での話だ。
それでもあながち間違いではないのだろうと思う。なぜなら――
「あ、あの……ちょっと立ち話をしていただけで」
「楽しいお話の最中だったんですね。いいですね、私も混ぜてくれませんか?」
「ああ、いえ……その……あはは」
翔がにこりと笑顔を作ると、美果も時間が止まったように彼の横顔に見惚れてしまう。