御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「だから今は、おばあちゃんの施設利用料の補助と、お姉ちゃんが作った借金を返すことに必死で……」
「待て待て、おかしいだろ。姉が作った借金は姉が返すべきじゃないのか?」
「そう、なんですけど……」

 翔の言いたいことは十分わかる。静枝が入所している施設利用料はともかく、梨果の借金は美果の責任ではない。姉が遊んで作った借金は姉が返すべきというのは当然の意見だ。けれど。

「実はお姉ちゃんの借金、おばあちゃん名義のクレジットカードなんです。だから法律的には、おばあちゃんが借金をしてることになってて……」

 祖母の静枝は、夫である美果の祖父が亡くなってからも自分の金銭は自分で管理していた。その中にクレジットカードもあったのだが、梨果はそれに目をつけたらしい。静枝の施設入所の慌ただしさに乗じていつの間にかカードをくすねた梨果は、美果がまったく関知していないうちにとんでもない金額を使い込んでいたのだ。

「心配をかけたくなくて、お姉ちゃんの借金のことはおばあちゃんに言ってないんです。だからお姉ちゃんが返せないなら、私が返すしか……」
「……」

 こんな情けなくて恥ずかしいこと、本当は翔に知られたくなかった。美果に落ち度がないとはいえ、身内が抱える金銭の問題など誰にも知られたくないに決まっている。

 けれどこれが、美果が三つもの仕事を掛け持ちする本当の理由だ。

「そのカード、ちゃんと解約したのか」
「残債が多いので、今はまだ解約してないです。でも姉からカードそのものは取り上げました」
「……そうか」

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