御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 翔もこの状況を案じてくれたらしい。一番最初にすべき『元を断つ』という対処法は講じていると告げると、ほっと安堵のため息をつかれた。

「普段は縁遠いですけど、親戚になにをしているのかと聞かれたときのことを考えて、社会保険と福利厚生がしっかりしている清掃会社に就職しました。ただそれだけじゃ足りないので、夜はキャバクラのお仕事を……」
「さっき言ってた、新聞配達ってのは?」
「中学の頃からアルバイトをしていたので、その流れでずっと続けてて……」
「はあ?」

 翔の質問にぽつぽつと答えると、それまで神妙な表情をしていた翔が突然怒りに満ちた声を出した。びくっとして顔を上げると、チラシの前に座り込む美果の隣で仁王立ちになった翔が、怒りに満ちた表情で美果を見下ろしていた。

 下から見上げてみると本当に足が長いな……と呑気なことを考えている場合ではなく。

「お前、やっぱり馬鹿なのか? そこは真っ先に切って、寝るか楽に稼げる別の仕事の時間に充てるべきだろ」
「だ、だって……! 新聞屋さんのご夫婦にはずっとお世話になってるんですよ!?」
「義理で腹が膨れるか!」

 確かに新聞配達のアルバイトは、曜日や天候に関わらず毎日決まった時刻に必ず新聞を届けなくてはならない仕事である。だがその大変さに引き換え、労働できる時間が短く仕事に対する報酬の単価も低い。つまりまったく稼げない仕事なのだ。

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