御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

6. 小さな夢をみて


「それにしても想像以上の状況だな。俺も面倒な立場だと思って生きてきたが、お前の方がよほど過酷だ」
「そ、そうですか?」

 翔の言葉を聞いて改めて考えてみると、確かに過酷な状況かもしれない。自分と身内の話で、しかも姉の借金が発覚してから約四年間ずっと働き詰めだったせいで感覚が麻痺していた。だがこれが他人だったら、美果も歪だと思うだろう。

 それでも辛くて苦しくて逃げ出したい、と悲観したり思い詰めたことはない。

(私には夢があるから……お父さんとの約束があるから、頑張れる)

 美果にはたった一つだけ、小さいけれど大切な夢があった。この苦しい状況にある美果の心を支えているのは、幼い頃に父と交わしたとある約束だった。

 カメラを手に世界中を飛び回りながらも闘病中の母を愛し支え、美果と梨果にたくさんの愛情を注いでくれた父の夢を引き継ぐ――その目標があった美果はどんなに苦しい状況でも弱音を吐かなかったし、梨果を許すことも出来た。大好きだった父の笑顔を思い出すと、辛さを忘れることも出来た。
 
「飯はちゃんと食ってるのか?」
「え……?」

 懐かしい父の姿を思い浮かべていると、ふと翔にそんな問いかけをされた。疑問の声に気づいて、はっと我に返る。

 いけない、そういえば仕事中だった。

「はい、一応は」

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