御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「それしか飲み食いしてないからな」
「え……えぇ!?」
翔が「それがどうした?」とでも言わんばかりに首を傾げるので、つい声がひっくり返ってしまう。
「外食ばかりで、家で食事はほとんどしない。休日はいつもそれだけだ」
「なるほど……キッチンだけやけに綺麗なのも納得です……」
翔の説明を聞いて、調理スペースに一切の汚れがない理由を理解する。それと同時に、お金持ちは違うなぁと妙に納得してしまう。
美果なんて外食など月に一度あるかないかぐらい、それも千円でおつりがくるのにお腹はいっぱいになる牛丼屋かうどん屋ばかりである。
「って、人の食事の心配しておいて、ご自身の食生活のほうがひどいじゃないですか」
外食時はいいものばかり食べているのだろうが、家での食事があまりにもひどい。働き詰めの美果が食事を満足に取っていないのではと心配してくれるのはありがたいが、栄養バランスのいい食事を自炊をしている美果よりも、翔のほうがよほど食生活が乱れている。プロテインバーとミネラルウォーターなんて、食事のうちにも入らないだろう。
そして日曜で仕事が休みだという翔はおそらく今日の昼食、そして夕食も同じメニューで済ますつもりだろう。
「わかりました、私に任せて下さい」
「……何をするつもりだ?」
美果の宣言を聞いた翔の眉間に皺が寄る。しかし美果は、特別おかしなことをするつもりはない。
ただ、たった一度の掃除にしてはあまりに高額な報酬をもらってしまったので、ほんの少し翔に還元するだけだ。