御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
7. これは家政婦契約ですか?
「へえ、すごいな。料理も出来るのか」
対面カウンターの向こう側にあるダイニングに着席して料理する美果を物珍しそうに眺める翔は、なぜかやけに上機嫌だ。
翔の感心する声に顔を上げるが、すぐに視線を手元に戻す。あまり見られると恥ずかしいのだが、手持ち無沙汰の翔にそれを言っても無駄だろう。家主である彼が家のどこにいようと、彼の自由だ。
「レパートリーもそれほど多くないですし、味も人並みですけど」
面と向かって褒められた照れを隠すよう早口で説明するが、台詞自体は嘘でも謙遜でもない。翔にちゃんとした食事をしてほしいと思う気持ちは芽生えたが、美果は本当にごく普通の料理しか出来ないのだ。
だからせめて好みに合わせようと、翔に『和食と洋食と中華、どれがいいですか?』と訊ねたら、少し考えて『洋食』と言われた。食材や料理の好き嫌いはないらしいので、美果も少し考えて献立を決めた。
近くのスーパーへ行って食材を買ってくると、新鮮なレタスとトマトとベーコン、量り売りしていたローストビーフを、軽くトーストした食パンに挟む。
そして出来上がったクラブハウスサンドを翔が食べている間に、残った材料をすべて使い切るべく、サラダとミネストローネとグラタンを作った。
二食連続でパンになってしまうことは申し訳ないとは思ったが、普段自炊をしないという翔の食生活を考えると、中途半端にお米を買ってきても無駄になってしまうだろう。よって次の主食もパンになるが、一応種類は変えてロールパンを選んだ。
「あとでこれを温めて食べてくださいね。サラダのドレッシングも、一回分のものなので無駄にはなりませんから」
「すごいな、お前……」