御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
ミネストローネが入った小鍋以外の調理器具を洗いつつ説明すると、翔は驚きを隠すことなく素直に美果を褒め称えた。
その口調から、もしかして彼はシェフやパティシエが作った料理以外はあまり食べないのかもしれない、と考える。もしそうなら庶民的な料理を用意してしまったことに申し訳ない気持ちになったが、それでもプロテインバーよりはましだろうと結論付ける。
「けど、料理すると洗い物が出るだろ」
「立派な食洗機があるじゃないですか」
翔が面倒くさそうな様子で呟くので、むっとしながら説明する。
「食器を並べて、洗剤を入れて、ボタン押すだけなんですから。天ケ瀬部長でも出来るはずです」
「めんどくせ……」
「それぐらいやってください」
こんなに立派な食器洗い乾燥機があって、使わないなんてもったいない。食器の量にもよるが、食器洗い乾燥機は人の手で普通に洗って乾かすよりも速くて正確に汚れが落ちて、水道代も節約できると聞く。美果の家にあるならば、喜んで使い倒すところだ。
「では、私はそろそろ帰りますね」
翔が食べ終わったクラブハウスサンドの食器を片付けると、彼が座るダイニングテーブルの前に立ってぺこりとお辞儀をする。
約束していた家の掃除を終え、時間が余ったので食事も作ったが、夜の仕事に出勤するためにはそろそろ帰宅して準備をしなければならない。
「助かったよ、ありがとう」
「いえ、こちらこそ……こんなに頂いてしまっていいのかと」
「正当な報酬だ、気にしなくていい」