御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
けれど疲れるどころか、今は少しすっきりした気持ちにさえなっている。想定外の展開ではあったが、これまでずっと一人で抱えてきた苦しい状況を翔に聞いてもらって、褒めてもらったからかもしれない。もしくは姉である梨果に振り回されている人生を労わってくれたことに少し癒されたのかもしれない。
「よし、頑張ろっと」
そう思うと少しだけ活力が湧いてくる。
これなら今夜の仕事も頑張れそうだ。
* * *
「おはようございます、秋月さん」
「……。」
沈黙。
なぜまた翔に呼び止められているのだろう。
美果がなにをしたというのだろうか。
「本社はそんなに暇なんですか?」
「そんなわけないだろ。仕事のついでだ、ついで」
相手が本社の偉い人だということも忘れ、うっかり悪態をついてしまう。
だが翔はなにか用があって話しかけてきたらしい。美果の嫌味をさらりと受け流すと、周囲に人目がないことを確認したのち思いもよらない台詞を言い放つ。
「秋月。お前、俺の専属家政婦になれ」
「……は? ……はい?」
翔の命令としか思えない提案に、つい間抜けな声が出る。多分、表情もぽかんと口を開けた間抜けなものだったと思う。それぐらい彼の言葉の意味がわからなかった。
「な、なんですか、突然?」
「しっかりした所属と、しっかりした給料が必要なんだろ? うちの家政婦になれば、俺がどっちも保証してやる。もちろん十分な睡眠を取れる時間も」
おそるおそる訊ねると翔が自信満々に答えてくれる。だがその説明を聞いても、やっぱりまったくピンとこない。
「あの、おっしゃっている意味が……?」
「なんだ、頭は良くても勘は悪いのか? ――森屋」
「はい」