御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「雇用契約……?」
「そうです。秋月美果さん、我々はあなたをヘッドハンティングしに来たんですよ」
「……え? へっど……?」
「天ケ瀬翔の自宅で炊事、洗濯、掃除、買い物、その他諸々の家事全般。交通費と早朝に出勤してもらう時間外手当が込みで、給与は月に五十万」
「ご、ごじゅ……? 五十万円……!?」

 衝撃的な金額を告げられ、思わず声がひっくり返る。

 五十万円……ごじゅうまんえん……
 美果の月収を大幅に上回る金額だ。

 笑みを浮かべて成り行きを見守っている翔と、にこにこと笑顔のままの誠人と、誠人が差し出してきた紙切れを見比べる。それを何度か繰り返しているうちに、二人が美果の前に突然現れた理由を少しずつ理解してきた。

 翔と誠人は、月五十万円の報酬を支払う代わりに翔の家で美果に家政婦業をしてほしい、というのだ。

「って、いやいやいや! 何考えてるんですか!?」

 美果を家政婦として雇うという突然の提案。驚くほどの高額な給与の提示。しかもただの思いつきではなく、用意周到に契約書まで作成してきている。

「天ケ瀬百貨店って、そんなに儲かってるんですか?」
「まぁ、それなりに」
「ですよね! 知ってましたけど!」

 その状況に大混乱したせいで、かなり失礼なツッコミを入れてしまう。

 しかし美果の困惑は予想していたのか、それとも困る様子を面白がっているのか、翔はあっさりと美果の問いかけを肯定してしまう。もちろん天ケ瀬百貨店の経営が好調であることは、美果も知っていたけれど。

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