御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「基本的には週休二日。日曜と、もう一日好きな曜日に休んでいい」
「その代わり副業は一切禁止します。つまり、今の仕事を全て辞めて頂くことが条件です」
え、あ、う、とか細い鳴き声を上げているうちに翔と誠人が次々と畳みかけてくる。だが美果はとても理解が追いつかない。
一旦、状況を整理する。
その場から一歩後退してゆっくりと深呼吸をする。それからちらりと視線を上げ、美果の反応を待つ気があるらしい二人に、今いちばん疑問に思っていることをぶつけてみる。
「あの、これって本当に家政婦契約ですか?」
「ん?」
「愛人契約とかじゃないですよね?」
「……ブフッ」
つい真顔で聞いてしまう。それを聞いた誠人が翔の隣で盛大に吹き出す。
自分のような平凡どころか貧乏女子を愛人にしたいと思うだなんて、あまりに自意識過剰かもしれない。だがきらきら御曹司である翔が月に五十万円も自分に支払う理由なんて、美果にはそれしか考えられないのだ。
「お前な……」
「日頃の行いが悪いんじゃないか、翔?」
「うるさいぞ」
翔の呆れた顔を横目に誠人がくつくつと笑う。二人はお互いに気心が知れているようで、翔も自然体で接しているようだが、今の美果には目の前の二人の関係など後回しだ。
改めて『雇用契約書』と書かれた紙を握りしめ、そこに書かれている文字を慎重かつ迅速に目で追っていく。
内容は翔の生活環境を保つことを主体としており、彼の夜の相手をしなければならない、とはどこにも書かれていない。つまり本当に家政婦としての雇用契約であって、愛人契約ではないらしい。
「私が、天ケ瀬本部長のおうちの家政婦……?」
「そうだ」
ぽつりと呟くと、翔が短く頷いた。