御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 きっかけは間違いなく、先日翔の部屋を掃除したことにあるだろう。それに気付いた美果は知らず知らずのうちに転職の試験を受けさせられていたような気分になったが、かといって不快な感情は起こらない。

 いや、それどころか努力が認められた気がして嬉しいと思ってしまったのが、美果の素直な心だ。

「天ケ瀬百貨店本社、総務部秘書課、特別秘書……?」
「ええ、そうです。私一人で翔の子守りをするのはめんど……少々大変なので、私の補佐をしてもらう形ですね」
「お前、そーゆーとこだぞ」

 どうやら翔の家政婦になる雇用契約を結ぶと、天ケ瀬百貨店本社の秘書のひとり、という扱いになるらしい。誠人の説明によると、翔の秘書である彼の補佐役という位置づけになるそうだ。

(これなら誰に聞かれても、ちゃんと所属を名乗れる)

 翔が言う『しっかりした所属と給料を保証する』という意味を理解する。確かにこれなら、清掃会社で仕事を続ける『確かな身分を名乗るため』という理由も、キャバクラでの仕事を続ける『高い収入を得るため』という理由も内包している。

 もちろんキャバクラに勤める売れっ子のキャバ嬢ならば、月に五十万どころか百万ぐらい稼げる人もいるだろう。

 しかし清掃会社での仕事がある美果には同伴出勤が出来ないし、翌早朝の新聞配達のアルバイトに備えて少しでも睡眠時間を確保すべく、アフターもすべて断っている。つまりキャバ嬢として売り上げに繋げる営業がほとんどできていないのが現状だ。

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