御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
番外編 -Side.翔-:天ケ瀬御曹司の決心
後日改めて内容を確認した上で正式に雇用契約を締結すると約束し、このあと別のフロアの掃除をするという美果の背中を見送る。
これで美果の過酷な労働環境は改善し、睡眠時間も確保できるようになるだろう。そうすれば彼女は少しずつ健康的な生活を営めるようになる、はずだ。
「なるほどね~」
美果の後ろ姿を見つめていると誠人が納得したように頷くので、ちらりと隣に視線を向ける。すると案の定、誠人がにやにやと笑みを浮かべていた。
「翔が家に女を入れたっていうから天変地異でも起きたのかと思ったけど、やっぱそーゆーこと」
「……なにが」
森屋誠人は小学生時代からの幼なじみで、翔の素や本音を把握している数少ない人間だ。その誠人に『秋月美果を他社から引き抜くために秘書課に枠を設けて、雇用契約書も作ってほしい』と命じた時点で、おおよその検討はついていたのだろう。
しかし実際の状況を自分の目で確認した誠人は、ささやかな予想が当たっていたことを確信したようだ。
「いや、あの格好だとパッと見は地味だけど、よく見るとすごい美人だったから」
「よく見なくていい」
「え、なにそれ嫉妬? こわ」
「誠人、お前砂に埋めるぞ」
誠人の軽口には苛立ちを隠さない。能天気でお調子者の彼には、このぐらいはっきり釘を刺さないと翔の意図が伝わらないのだ。