御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だが嫉妬……と言われればそうなのかもしれない。
これまでの恋愛において『嫉妬の感情』を抱いた経験がほとんどないので、絶対にそうだと言える自信はない。だが今、美果と親しげに話す男性が目の前に現れたら、面白くないと思う気がしている。そんな想像をしてモヤモヤするぐらいには彼女のことが気になっている。
秋月美果という人物は、これまで接してきたどの女性たちとも質が違っていた。翔に一切の色目を使わず、わざとに壁に追い詰めて耳元で低く囁いてもまったく動じない。逆に翔の本音を知っても同情などしないし、翔の覚悟を知っても応援することさえない。
翔が仕掛けた罠をすべてかわし、さらけ出した本音をさらりとあしらう。明確な線引きをするとその先には踏み込ませないし、自身も割り入ってこない。ただ淡々と『あなたの邪魔はしないから、わたしの邪魔もしないで』という態度を貫く。
そうかと思えば翔の食生活を心配するような素振りを見せて、手料理まで振る舞ってくれる。
最初のうちは『これまで築いてきた自分のイメージが崩されるのではないか』という点ばかり気にしていた。――そのはずなのに、いつの間にか美果のことばかり考えるようになっている。
ちゃんと寝ているのだろうかと気になる父親のように。変な男が寄りついているのではないかと心配する恋人のように。少しでも幸福な人生を歩めるようにと願う熟年夫婦の夫のように。
そう、気がつけば天ケ瀬百貨店東京を訪れるたびに美果の姿ばかり探している。こんな風に翔の『心』だけをかき乱す女性は、秋月美果という存在がはじめてだ。
「素の翔を見られたのって、栄生商事との接待だっけ? いやー、俺も行きたかったな~」
「絶対思ってねーだろ」