御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
とりあえず美果を手元に置くための段取りを組み、夜の職業を辞めてもらうことまでは成功した。だが現状、彼女は翔に一切の興味がない。雇用契約を結んだことと、美果が異性として翔を意識してくれるかどうかはまったく別の話だ。
「愛人……か。そうなったら、俺は査定される側だな」
「ん?」
「いや、これまで付き合ってきた男たちと比べられるのかと思ったら、あんまり無様なことも出来ないな……と思って」
キャバレークラブ〝Lilin〟での様子を窺うに、『さやか』は店のキャバ嬢の中でずば抜けて人気があるわけではなさそうだった。
もちろん接待の日に会っただけなので正確な情報ではないが、常連客に煙草を頼まれて接客中におつかいなんて、売れっ子のキャバ嬢がするはずがない。店の者が、そんな真似など絶対にさせないだろう。
ということは、『さやか』はそれほど人気者だったわけではない、と推察できる。
とはいえ多少なりとも夜の世界で生きてきた女性なのだから、それなりの経験を積んでいるはずだ。ならば天ケ瀬百貨店本社の営業本部長という肩書を持とうと、有名企業の御曹司として生まれようと、これまでそれなりの恋愛経験を積んでいようと、きっとまったく関係ない。
いざ『そう』なったときに異性としての魅力をジャッジされるのは、間違いなく翔の方だ。
「おま……まじでマジなんか……」
「何が?」