御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
第2章

1. 大好きな人のために


 家政婦として天ケ瀬翔のマンションへ通うようになり、早二か月。

 先日銀行口座に最初の給料が振り込まれたのでおそるおそる記帳してみたところ、税金と社会保険料こそ引かれていたが、本当に提示された金額の給与が振り込まれていて度肝を抜かれた。しかも後で本契約をする際に知ったのだが、給与だけではなくボーナスも支給されるという。

 これならあと数年はかかると予想していた梨果の借金も、一年ほどで返済できる計算だ。あまりの好待遇に夢でも見ているのではないかと思う。

 ――いや、夢を見ているのは美果ではなく翔のほうだ。

「翔さん、起きて下さい!」

 最初は軽めのコンコンというノック音が、次第に激しい音へと変化していく。三回目にはドンドンという重さを含んだ音に変わったが、それでも翔はまだ起きてこない。美果の手動スヌーズ機能にも限界があることを、今日こそ翔に思い知らせてあげるべきだろうか。

「しょーさん! 時間ですよ!」
『んー……』

 さらに大声もプラスして寝室のドアを叩くと、中から翔の眠そうな声が聞こえてきた。ようやく起きてくれたらしい。

 覚醒を確認すると一度寝室の前を離れ、キッチンに向かいコンソメスープに火を入れる。さらにトースターに食パンをセットしてタイマーを回し、目玉焼きを作るためにIHヒーターにフライパンを置く。

 しかし冷蔵庫から卵を取り出したところでふと気づいた。

 もうすぐ七時半。
 天ケ瀬翔、まだ起床せず。

「ちょっとおおぉ! 翔さん!」

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