御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
絶対に起きたと思ったのに、一向に寝室から出てこない。返事はちゃんと聞こえたが、どうやら翔はまた眠ってしまったようだ。
小学生か! とツッコミをいれたくなる気持ちを抑えて、再度寝室に向かう。さすがに四回目は容赦するつもりもない。
「天ケ瀬営業本部長! 起きてらっしゃいますか!」
ドンドンと強めに扉を叩きつつ、わざと彼を役職名で呼ぶ。
翔はプライベートに仕事の話を持ち込むことを好まないらしく、家政婦の仕事を始めて一番最初に命じられたことが『翔を下の名前で呼ぶこと』だった。
最初は慣れずに『天ケ瀬部長』と呼んでしまうことも多かったが、そのうち『翔さん』と呼ばないと返事をしてくれなくなった。だから、小学生か!
翔の呼び方を徹底的に矯正された美果だったが、彼が起きないときはわざと『天ケ瀬営業本部長』と呼ぶことにしている。そうすると苛立ちで覚醒するのか、翔はちゃんと起きてくれるのだ。
「起きましたか? 起きなきゃ、お部屋に入りますよ!」
『わかったって……朝からうるせーな……』
「翔さんが起きないからです」
美果の文句に扉の奥から反論が聞こえてきたが、ちゃんと起きてくれたのならいいのだ。今度こそ目玉焼きを作り始めても大丈夫だろうと考え、もう一度キッチンに戻る。