御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
(あの給料の半分以上が早朝の時間外手当だよね……私にはわかる)
寝起きでぼーっとしている状態まで綺麗に整っている翔の顔をじっと見つめながら、そんなことを考える。よだれの痕跡も寝ぐせもついていないなんてずるい。神様は不公平すぎる。
「朝食できましたよ。パンでいいんですよね?」
「なんでもいい……ってか、朝からそんな食えねーって」
「パンとスープとヨーグルトだけでも食べて下さい。おかずは夜食のサンドイッチの具材にするので、残していいですから」
未だに眠そうな様子の翔は、美果の説明を聞いても生返事しかしてくれない。だが目の前に置いた淹れたてのコーヒーを飲んでいるうちに、徐々に覚醒してくるらしい。
なんだかんだで用意したものをすべて平らげると、顔を洗って歯を磨いて、着替えを済ませて再びリビングにやってくる。
その頃にはもう眠そうな様子など一切感じられないきらきら御曹司の完璧な王子様『天ケ瀬翔』に仕上がっているのだから、美果は感心するしかない。
最後に玄関先で翔の全身を確認するが、こうして見てみると今日はなにかが足りないように思える。
「あ、翔さん。ネクタイピン忘れてますね」
そうだ、ネクタイピン。
機能的にはあってもなくてもどちらでもいいという人もいるが、翔の完璧なスーツ姿を引きで見てみるとやっぱりあった方がいい。身体が動くたびにネクタイも揺れ動くようでは『完璧』な姿には少し惜しい気がしてしまうのだ。