御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

(さすが天ケ瀬御曹司……! 今日も最高にかっこいいし、笑顔も完璧。これぞ王子様ってかんじ!)

 その背中を見送りながら心の中で拍手を送る。

 休憩室でよく会う、地下一階のお弁当屋やパン屋に勤務するマダム達が口を揃えて絶賛していた。『天ケ瀬翔は王子様だ』と。

 今までもたまに姿を見かけては『わぁ~イケメン~!』と思っていたが、まつ毛の長さを確認できるほど間近で見るのも、実際に会話をして笑顔を向けられるのも、美果は今日が初めてだ。

 だからこれまでは知らなかった。でも今ならマダムの皆様の言いたいこともよくわかる。美果を助けてくれた天ケ瀬翔は、確かに最高に格好良くて笑顔まで完璧な王子様だった。

(やっぱり今日の占い一位なだけある! ネクタイの色、ネイビーだったもん!)

 しかも驚くことに、ちらりと確認した彼のネクタイはダークグレーのスーツによく合うライトネイビーだった。偶然とは思えない奇跡の一致に『本当に当たった!』とひとり感動してしまう。

 もしかしたら今ので今日の幸運をすべて使い果たしてしまったかもしれないが、それでも構わない。

 翔は美果とは住む世界が違いすぎる御曹司さまだ。間近で拝んで会話が出来ただけで十分幸運である。

 いや、むしろ美果にとっての一番の幸運は、彼のおかげで定刻通りに仕事を開始できることかもしれない。

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