御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「あら、でも今日は顔色がいいわね」
「あ、うん」
美果の顔を覗き込んだ静枝が意外そうに目を丸くする。その表情が珍しく嬉しそうだったので、
(おばあちゃんにも心配かけちゃってたんだ……だめだなぁ)
とこれまでの生活を改めて反省した。
静枝も美果が忙しいことは理解しているが、その理由が梨果の作った借金返済のためで、しかもその借金が自分名義であることまでは把握していない。足が悪いこと以外には特に不調のない祖母だが、高齢であることを考えればやはりショックを与えるような情報は耳に入れるべきではないだろう。
それは言わないようにするとして、美果は今日、静枝に報告しておきたいことがあった。
「おばあちゃん。事後報告になっちゃってごめんなさいなんだけど……実は私、転職したの」
「あら、そうなの? お掃除の会社は辞めちゃったのね?」
「うん。って言っても、やってることはまたお掃除なんだけどね」
間違ったことは言っていない。食事や洗濯や買い物もしているが、掃除もしているのだから。
だがここで『天ケ瀬百貨店という大きな会社の秘書課に所属となった』といえば、それはそれで静枝の混乱を招くに違いない。
ということで、ここは曖昧な表現で許してもらうことにする。