御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「美果ちゃんが元気でいてくれるなら、なんだっていいのよ」
いつものように朗らかに微笑んでくれる静枝に「うん」と照れ笑いを浮かべる。美果は両親のことももちろん大好きだったが、それと同じぐらい祖母の静枝のことも大好きだった。忙しい父と入院の多かった母に代わり、美果と梨果を大切に育ててくれたのはいつも彼女であった。
だから元気でいてほしい。一日でも長く健康に生きてほしい。
そんな美果の願いの上に、まさかの要望がのしかかってきた。
「あとは嫁のもらい手が見つかってくれればいいんだけどね」
「ウッ……」
どストレートな祖母の願望に思わず変な声が出てしまう。無邪気な笑顔で痛いところを突いてくるのがこの祖母である。
もちろん美果も、自分が結婚適齢期であることは理解している。だが結婚というものは相手がいなければ出来ないのだ……って、これ今朝も思った気がするのだけど。
「美果ちゃんより、梨果ちゃんの方が先かしら」
「……。」
「そういえば、梨果ちゃんは元気?」
姉妹を同じように可愛がってくれた静枝だ。当然、梨果の話題が出ることも覚悟はしていた。
だが美果は、この質問に関しては五年前から毎回のように言葉を詰まらせてしまう。無理にでも笑いたいと思っているのに、相手がキャバクラ店に来る客だったら適当にあしらうことも出来るのに、静枝には上手く笑えている自信がない。
それではだめだと、思うのに。