御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「どう、かな……。最近、連絡取ってないんだ……」
「そうなの? まぁ、梨果ちゃんも忙しそうだものね」
美果がどうにか絞り出した言葉を聞いた静枝が、少しだけ寂しそうに頷いた。
その表情を見て思う――やはり彼女には絶対に知られてはいけない。美果にも梨果にもたくさんの愛情を注いでくれた静枝が、事実を知ってショックを受けないはずがない。
静枝は夫である祖父の遺産でこの施設に入所し、受給している年金を利用料に充てることで今の生活を継続している。臨時の費用等でどうしても足りない場合は美果が補填しているが、梨果のせいで秋月家が負債を抱えているという認識は一切ないのだ。
梨果の状況は決して知られてはいけない。知れば心穏やかに過ごせているこの施設を出て、足が悪いのに無理にでも自宅で過ごして、浮いた年金を梨果に渡そうとするだろう。
夫に先立たれ、息子と嫁を失い、その二人に代わってこれまで美果たち姉妹を育ててくれた静枝が、今さらそんな悲しみや苦しみを味わう必要はない。美果はただ、大好きな静枝に楽しく過ごしてほしいだけなのだ。
「それよりおばあちゃん、欲しいものある?」
これ以上梨果の話題を続けていると、余計なぼろが出てしまいそうで怖い。だから自然な形で別の話題にスライドする。
「もうすぐ誕生日でしょ? 私、何かプレゼントがしたいの」
「まあ、ありがとう。嬉しいわ。……でもね、私には美果ちゃんが元気でいてくれることが、一番のプレゼントなのよ」
「……おばあちゃん」
静枝がにっこりと微笑む姿を見て思う。
美果はやっぱり、歳を取っても可愛らしい祖母のことが大好きだった。